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【レオン北米釣り紀行/1996年〜1999年カリフォルニア】Vol4:レイクキャステイクの「怪」後編

連載:加来 匠レオン「ライトゲームマニア」
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前編からの続き

【レオン北米釣り紀行/1996年〜1999年カリフォルニア】Vol3:レイクキャステイクの「怪」前編

「ルアーでチャレンジしても良いけど、責任持たないぞ」と言うボブの言葉に正直かなり動揺してしまった。まあしかし、とりあえずは言うことを聞いてみる事にした。先は長いさ。何度でも来れるしな…。

言われるままにフックの少し上にスプリットショットを打ちザリガニをフックにセットする。初めて試す餌だがさすがにザリガニだ、硬い…。頭の先のとがった部分に針を刺そうとするが簡単には通らない。もたもたしていると案の定プチッと鋏まれてびっくりし、取り落としてしまった。ボブに笑われながらもロッド二本にセットし、バスの通り道へとキャストする。これは完全に回遊バスの「待ちの釣り」だ。 日本のリザーバーでも良くあるが、プレッシャーの高い湖ではデカバスは一箇所にとどまらず、クルージングするようになると言う。

しがなくフィッシングチエアに腰を下ろしてアタリを待ちながらボブと雑談にふける。ボブの本業はナント警察官だった。映画に良く出てくる「ロス市警」の警官だ。で、オフの日はフィッシングガイドをやっているのだそうな。 背丈が2メートル近い大男で、何をどう間違っても戦ったらとても勝てそうにない。警官特有なのでもあろうが、そんなオーラが体中から滲み出していた。おまけに準備が済んで一息ついてジャケットを脱いだボブの両腕には見事なタトウーが入っていた。感じたオーラはひょっとするとギャングの持つものと同質のものだったのであろうか?笑

突如ボブのロッドティップがピクピクと連続して痙攣し始めた。

「お!アタリだ!」と俺が思わず「日本語」で言うと、「いや、ザリガニが暴れているだけだ」と「英語」で返す。

全く釣り人とはおかしなものだ。違う言語でも見事に通じてしまう。

「バスがすぐそばに来ている」「多分クローダッドの周りを回りながらタイミングを見ているのさ」

なるほど、爪親父は今ハサミを振りたててバスの回る方向へ付いて周り、一生懸命威嚇しているのだな、と想像できた。

走った!

クラッチを切っているスプールからラインが激しく引き出され始めた。反射的に手を伸ばしたくなるのを我慢して見ていると、ボブはおっとりとロッドを取り上げ、無言のままロッドをスイープにあおった。ムーチングタイプのアクションのロッドなのだろうか、バットから鮮やかな弧を描いてしなる。

ドラグがすべる音が聞こえる。ズズッズズッと言う音でそれ程のビッグフィッシュではないのは俺にもわかった。事前にボブが口真似で10ポンドオーバーバスがラインを引き出す音を口真似してくれていたからだ。それは「ZZZeeeeeeeeeeeeeeeee!!!」って感じで表現されていた。

難なくキャッチしたバスは50cmに少し満たない綺麗な魚体のバスだった。ボブが言うにはフロリダ種ではなくノーザンだと言うことだ。そこから二人のロッドには2時間ほど当たりがなく、ボブも俺も次第に無口になっていた…。

プレデター襲来

少しぼんやりとしているところへドラマは突然やってきた。

ボートから2メートルほど離れた水中を猛烈なスピードで20センチから30センチくらいの魚が数十匹通過して行く。ボブがなにやら大きな声を出す。そして指差す先を見ると向こうから水面を跳ねるようにして次の大集団がやってきた。明らかに何かに追われ必死に逃げている。そしてボートの船べりにぶつかりながら縦横に入り乱れてパニックに陥っている。魚は虹鱒だった。(後で聞いた話だが、バスの餌として虹鱒を大量に放流しているらしい。さすがアメリカと言うしか…)

目を丸くして見ている俺の真下の水中からいきなり怪物が姿を現した。それは一瞬魚には見えず、まさしく「バケツ」が水中から現れたように見えた。怪物はぎょっとなるくらいの大口を開けて、その図体からは想像がつかないほど素晴らしい反射で虹鱒に食らいついた。

そして頭から半分ほど咥え込まれた虹鱒は、尾びれを激しく痙攣させて飲み込まれていく。2メートルあるかないかの至近距離での出来事だ。ブラックバスがワカサギやその他の小魚を追い回して捕食するシーンは俺とて数限りなく見てきたが、この寸劇であり惨劇ほどの凄まじいものは経験がない。北米の広大な環境に棲む野生の猛々しい捕食行為と凄惨な食物連鎖の一環を、まるで記録映画をスローモーションで見るがごとくつぶさに見てしまい、思わず胴震いがしてしまった。

怪物の体長は恐らく70センチを少し超えるほどであろうが、途轍もない体高を持つフロリダ種のバスだった。激しいが的確な動きで虹鱒を捕らえたその巨魁は俺の視界の中で悠々と動きを止め、腹を横に返すような仕草でゆったりと尾びれを振りながら恍惚とした表情で獲物を飲み込み、その時点で我々に気づいたように目をギョロっとさせながらゆっくりと水中に消えていった…。

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