ルアーフィッシングのトピックをこまめにお届けする釣りの総合ニュースサイト

LureNews.TV YouTube Channel

【ロッドビルダーと開発者の違いって?】ロッド開発者を20年続けてきたトモ清水だからこそわかる「ロッド開発という仕事」

連載:トモ清水「ガッ釣りソルト」
  • X
  • Facebook
  • Line
  • はてなブックマーク

WEB連載「トモ清水のガッ釣りソルト」第172回
【ロッドビルダーと開発者の違いって?】ロッド開発者を20年続けてきたトモ清水だからこそわかる「ロッド開発という仕事」

トモ清水(Shimizu Tomo) プロフィール

20年以上ロッド開発者として釣り具業界に携わるスーパーマルチアングラー。ロッド開発を手掛けたブランドは、国内、海外、自社、OEM問わず、20社にも及ぶ。現場主義、実績主義をモットーに全国各地、世界各地、釣りに飛び回るガッつり系。常に自然と魚をリスペクトし、次世代の楽しいものづくりに挑戦し続け、世界トップクラスのロッド開発者を目指す。1977年9月生まれ。本名は清水智一(しみず・ともかず)

こんにちは、トモ清水です。

立秋、暦の上では秋。現実はまだまだ猛暑続く真夏。今回はロッド開発という仕事に携わって約20年、ロッド開発がどういう仕事なのか、どうやったらその仕事に就けるのか、など開発者視点でしか見えない、知られざる事実を少しでもお伝えしていければと思います。

DMである大学院生から将来、釣りの仕事に携わりたく、実際に釣りメーカーがどういうものなのか、実態に関するご質問、お電話を頂いたり、ロッドに関わるご質問を度々頂いております。

趣味を仕事にすることの賛否も色々あると思いますが、釣り人にとっては誰しもが、自分が好きなことを仕事として「趣味と実益を兼ねる」という、自分の好きなことをしてお金を稼ぐことに1度は憧れたり、夢見たことがあるのではないでしょうか。

また仕事としてではなく、個人でリールやロッドをカスタムする方も多いかと思います。でも実際は、カスタムやロッドビルディングみたいな個人的なものと、仕事として、プロとして、それを生業としているのは全く別物ということになります。

では実際に項目ごとに詳細を説明していきます。

「ロッド開発という仕事」目次

ロッドビルダーとロッド設計開発者との違い

世の中にはロッドビルダーと呼ばれる、読んで字のごとく、ロッドを自分で作っている方は多くいます。しかしその実態は、ロッドのブランクス(素管)を外部から手に入れて、ガイド部品やグリップ部品も調達し、それらをアッセンブリ(組み立て)して完成させるケースがほとんど。グリップ素材のEVAやコルクなど、自分の好きな形状に削ってカスタムしたり、ガイドのサイズや数を自分なりに選び、カスタムし、好きな色で塗装することは、簡単で誰もがチャレンジ出来ます。しかしブランクスに関しては、自分でパターン設計し、巻いて焼成し作ることはほぼ不可能で、完成した出来合いのものを入手するほかありません。

よってロッドビルダーとロッド設計者もしくは開発者の決定的な違いは、ロッドの心臓部であるブランクスを自ら作れるかどうか否か、といった点になります。

また、ロッド開発のプロかアマチュアか、という点で見た場合も、マンドレル設計、パターン設計、テーパー設計、部品設計などの設計における実務経験があるかどうかで判断出来ます。

ロッド(釣竿の性能、うんちく)について、あたかも知ったかのように上手く饒舌に語っている方も居ますが、これはトークや文章が上手いだけであって、開発のプロから見ればアマチュアの領域を超えません。

ロッド設計、開発者はロッドビルダーとも言えますが、何万通りというパターン設計まで出来るか、出来ないかが、1つの境界線となるわけです。実際に設計まで出来るロッド開発者は国内では非常に限られている特殊な仕事とも言えます。

ロッドの仕事に携わるには

ロッドの仕事に携わる1番の近道は、ロッドを販売している釣り具メーカーに務めるということ。これは分かり易いですよね。でも実際にはロッドに関わる仕事は、以下のように細かく分けられます。

・企画、立案する仕事(開発、マーケティング)

・ロッドのブランクス(素管)を設計する仕事(開発)

・ロッドのデザインをする仕事(デザイナー)

・ロッドの部品(カーボン、ガイドなど)を調達する仕事(サプライチェーン)

・ロッドを製造する仕事(工場、生産管理)

・ロッドを検査する仕事(工場、品質保証)

・ロッドのフィールドテストしフィードバックする仕事(開発者、テスター)

・ロッドをプロモーションし、販売に繋げていく仕事(マーケティング、テスター、営業)

実際にはもっと細かいのですが、大まかに分けてこのような仕事になります。ロッドの仕事に携わるには、まずどの仕事に携わりたいのか、というのを考えておくと良いでしょう。

またロッドの開発者には、鮎竿専門の設計者、ルアー竿専門の設計者など、鮎、磯、へら、ルアー、フライ、渓流などジャンル毎に専門の設計者がいるケースもあります。これは大手総合釣り具メーカーにある傾向。

また大手企業になればなるほど、企画、開発、デザイン、製造、販売、営業と上記の仕事が明確に区別され、部署が分かれています。

ちなみにわたくしトモ清水の場合、幸いなことに全ての業務に携わった経験があり、0(ゼロ)から企画し、開発、プロモーションまで一貫したブレのないロッド開発が強み。またルアーロッドだけでなく、鮎竿や渓流、船竿など、あらゆるジャンルのロッド設計も経験あるので、たとえば鮎竿の最先端技術をルアーロッドに応用する、といったことも可能になります。

私のケースのように一貫したロッド開発は、縦割りの仕事でそれだけ限られた仕事をこなすというよりは、やらなければならない業務も多く、非常に大変ですが、1番やりがいがあると言ってもよいでしょう。

釣竿の心臓部

釣竿といえば現在カーボン素材で作られているのが一般的ですが、竹材から始まり、グラス素材、カーボン素材と進化してきました。グラス素材からカーボン素材に切り替わった時の釣竿の進化は大きく、カーボン繊維ならではの軽さと強度を手にしました。

それが1972年、オリムピック釣具社から世界初のカーボン竿「世紀あゆ」が発売。これまでの概念を大きく覆す出来事になりました。

このように釣竿はブランクス(素管)と呼ばれる部分によって大きく性能、特性が変わり、釣竿の心臓部と呼べる重要な部分になります。

その心臓部のブランクスは、やがて高弾性のグラファイト開発により、より軽く強く進化していったのはご存知でしょう。

鮎竿やへら竿は、ガイドという部品が一切ないので、ブランクスだけで、その釣竿の調子、軽さ、強度が決まってきます。一方、ルアーロッドは、ガイド部品、グリップ部が加わってくるので、それらのセッティング、材質によっても釣竿の性能が影響されてきます。ルアー竿もブランクスでその竿の性能がほぼ決まるのですが、ガイドセッティングやグリップ部によっては、そのブランクス性能を引き出せないというケースも出てきます。

ガイドあるなしにしても、テスト等でそのバランスや長さをチェック、調整していく必要があります。

ロッドOEMとは?

OEMという言葉はよ耳にするかと思います。釣り業界にもOEM形態は多く存在します。ロッドメーカーは数あれど、自社窯を持っている国内メーカーは非常に限られています。よって自社窯を持っていないほとんどのメーカーは、OEM(Original Equipment Manufacturing)という形を取っています。OEMメーカーが他社ブランドの製品を生産します。もしくは海外に生産拠点をおくか、中国をはじめとする海外のロッド工場に生産をお願いする、という形をとります。

私もロッド開発者、設計者という立場から、この20年間、実に20社近いOEMのロッド開発に従事させて頂きました。ここまで幅広く他社ブランドのロッド開発まで手掛ける他のロッド開発者は、私の知る限り居ません。時にはODM(Original Design Manufacturing)といった業務提携も。おそらくこれを読んでくださっている方がすでに使っているロッドも、何かしら私が開発に関わっている可能性が高いかもしれませんね。

ロッド開発者は、各社の担当の方だけでなく、トップバスプロアングラー、各テスター、鮎の友釣りスペシャリスト、へら釣りを極めたへら釣り堀のオーナー、全国各地の敏腕船長など、各釣りを極めた釣り人と仕事するケースを非常に多く、彼らと打合せ、フィールドテストなどを通じて、決して1人で釣りをしていては得られない、情報、経験、考え方を多く学ぶことができ、釣りは知れば知るほど、自分が無知であることを痛感させられます。

ロッドの日本製、中国製の違いとは?

今から10年前、15年前、たしかに日本製と中国製の釣竿の性能は、雲泥の差がありました。製造技術もそうですが、中国ファイバー、韓国ファイバーと東レや三菱レイヨンといった日本ファイバーの、もともとの素材、繊維自体の性能差もありました。

ご存知の通り、この10年間で急速に成長を遂げた中国。中国には出張に行くたびに、その中国の成長を間近で見てきました。また私のような日本のロッド開発者が中国に行くことで、彼らも日本の技術を学び、改善を繰り返してきました。私も13年前の当時を思い出すと、現地で検品すると不良率が50%を超えるほど、品質が悪く、とても苦労した記憶があります。

見た目の品質もそうですが、継ぎ目の精度やガイド並びの精度、またブランクス自体の強度や曲がり不良。あらゆる点で日本国内の求める品質は、世界から見ると異常で、その異質なクオリティーを海外の方に理解してもらうのに一苦労。海外の品質基準では日本基準があり得ないのです。

そういった点では、日本の釣り具の「ものづくり」は世界トップクラスと言えます。

しかしながら、もはや中国は世界の工場。彼らのパワー、推進力は凄まじく、度重なる改善もあって、もはや日本製と中国製の差は無くなってきていると言えるでしょう。

ただし、カーボン繊維の質、性能は、東レファイバーはやはり世界一。私が最先端ロッド製造技術で設計する素材の選択は、東レの最先端素材が必要不可欠となってきます。この日本の技術力があってこそ、さらなる進化が望めます。

この先、さらなるロッドの進化はあるのか?

結論から先に言いますと、これから先、まだまだロッドの進化の余地は残されています。

東レさんと先月、色々お話しさせて頂いた中で、久しぶりにワクワク出来、かなりディープな話題で盛り上がりました。

「こういう話しが出来るのも清水さんしか居ないんですよね〜」

こういう話というのは、東レさんの最先端素材を、どう釣竿として応用し進化させるか、という純粋に技術的な内容。そこには一切、コストやマーケティング、経営的な話は入らない、純粋に技術的な話が出来る、ということで東レさんの担当の方も「清水さんしか居ないんですよね~」と仰るのだと思います。まだまだブランクス技術は進化出来るのだと、考えさせられた内容でした。

一般的な経営者、開発者の立場で考えると、どうしてもコストという壁が立ちはだかります。このコストを考慮した場合、販売価格との兼ね合いや、コストやマーケティング、経営的な要素が入るので、純粋にロッド技術だけにフォーカスしにくく、進化を妨げる要因となってしまいがち。進化にはやはりコスト増が付き物で、膨大な開発費、研究費、それに伴い材料の高騰が発生し、非常に高額な釣竿になってきます。

要するに、コストが高いため、高性能な進化したロッド技術をあきらめるしかない、ということ。釣り人がどこまで釣竿の性能を求めるのか、これもまた時代によってニーズは変化するものなので難しいところ。たしかにコストを掛ければ、より進化したブランクスを手に入れられるのだが…

ただ、いち開発者としては、やはりロッドの進化には、コストを度外視しても興味が尽きないものなのです。

主役は皆さん、釣り人であるべき

以前、東レさんの協力と頼もしいバックアップがあって、何万通りというパターン設計から、最適解を自分で導き出せた経験は大きく、仮説を立てては、仮設計しプリプレグを裁断しては巻いて、測定し、折っては強度データを取る。この作業をいったいどれだけ繰り返しただろうか。

その甲斐あってカーボンブランクスの設計パターン、最適解は頭に完全に入っている、それが自分のロッド開発者の強み。

また何十年という先人達が築き上げたロッド設計の基礎も、自分のベースとなり、そこから応用する事でさらなる高みを目指せられます。

ロッド開発、設計は、皆さんが知っているより、より深く、より面白い。そしてまだ進化の余地が残されています。

さらに最先端素材を採用し、製造技術的にも進化させたブランクスの製法を考え、現在テストしています。

えんぴつ1本、紙に書いていく作業はとても重要。仮説を立て、多角的に設計、開発し、現場でテストしていく。「現場主義」「実績重視」。

シャンとしているけども、キャスト時、ファイト時は、しっかり曲がり、ムチのようにしなる。魚の強烈なファイトに対し、タメているだけで魚を寄せる、浮かす力があるブランクス。

高弾性に頼らない軽量化、高感度化。そしてさらなる飛距離が出るブランクス。そして、もっと釣りが楽しくなるロッド。さらなる理想の釣竿を。

話しは少し長くなりましたが、ロッドが進化することで、より釣りが楽しく、ゲーム性が増すことを、より多くの方に知って頂きたい、体感して頂きたい、単純にその想いだけ。一方であまり言うと、メーカーの宣伝っぽくなるので、そう思われるのが嫌だったりします(笑)。

ロッドにしてもリールにしてもプロダクトに注目されがち。それでも道具は道具。主役は皆さん、釣り人なのです。釣り道具は釣り人をサポートし、相棒であるべき存在だと思うのです。

トモ清水でした!

See you next time!

隔週連載 トモ清水のガッ釣りソルト
隔週・日曜日に 配信!

過去の連載記事を全て掲載している特設ページはこちら