今江克隆のルアーニュースクラブR「失ってしまった能力〜TOP50遠賀川戦レポート〜」 第1248回
悪魔の悪戯だったのか
JBトーナメントに出続けて42年、自分にはトーナメントの神様と共に、トーナメントの悪魔も憑いているのではないか?と思うことがある。
自信を持って臨んだ開幕戦を最悪の結果で終え、折れかけた心をギリギリで堪え、最も厳しいと思えた第2戦小野湖戦を6位入賞でクリア。
なんとかスタートラインに戻れたと思ったのもつかの間、第3戦遠賀川はその喜びを完全に消し去り、さらなるドン底へ突き落すまさかの2日連続ノーフィッシュ最下位という結果となった。
小野湖戦でトーナメントの神様に「まだもう少し頑張ってみろ」と言われた気がしたが、それはより大きな失望感で自分の心を折るためにトーナメントの悪魔が仕組んだ悪戯だったのだろうかとすら、今は思う。

克服して隆を成す、その名の通りトーナメントの神様は自分に楽は絶対にさせてくれないようだ
遠賀川戦
今試合、プリプラで感じた遠賀川は過去最悪レベルに厳しく、下手をすれば小野湖以上のロースコア戦が誰にも予想できた(実際にノーフィッシュ率は歴代最高だった)。
だが、1日に50cmUP3本を釣った日もあり、小野湖戦同様、1本仕留めれば予選通過できるビッグフィッシュパターンだけはリスキーながら掴んでいた。
そして遠賀川は過去2度の優勝、数多くの表彰台獲得、直近数年の試合でもトップ10に2度入っており得意なフィールドである。
ここでポイントを獲得し、出来れば表彰台も獲得して後半戦に勝負を賭けるためにもここで絶対に上位入賞しなければと思っていた。

小野湖戦同様、リスキーだがビッグバスパターンだけは掴んでいた。「クジャラミニ」のライブサイトと「リグラー3.5インチ」のダウンショットでの縦ストロングステイだった
「好事魔多し」と言うが、今回の敗因をあげるとすれば試合初日、自分ではどうすることも出来ないまさかのアクシデントで手にできたはずのビッグフィッシュを手放してしまったことだろう。
この1尾がその後の流れを決めた気がする。
1本1,200g以上を仕留めれば予選通過(現実、2日間で900g1尾で通過だった)と予想していただけに、1本勝負をまた続けたことが完全に裏目に出た。
結果的に2日間で自分が得たバイトはこのワンバイトだけに終わった。
1本を仕留めた時の集中力の持続力と、1本をミスした後の集中力の乱れの落差、それを切り替え修正するメンタルが今回の自分には著しく欠けていた。

得意の遠賀川にもかかわらず、2日間ノーフィッシュ。最初の1尾を確実に手に出来なかったことが全てを悪循環にさせた
正直な気持ちを告白すると、もうこれ以上、今の自分で出来る努力はないと言っても良いほどやれることは一切手を抜かずストイックに昨年以来努力してきた。
それでも2日間なぜ1尾すら釣れないのか、その原因がもう分からない。

メインの戦略は護岸だけの下流部での超ピンスポットのライブサイト。下流で仕留めれば小さくても1,300g以上。だが集中力が少しでも乱れると全てが雑になって喰わせることが出来ない

得意のバックウォーターでもゾーンに入りきれない。一度狂った歯車を切り替え修正することが最後まで出来なかった
原因
この数日間、その理由を考えてきたが「状況判断力」、「技術力」、「装備」、「経験値」において今の強い若手プロ達と著しく劣ると思える部分は少ない。
「体力」も若手と比較しても練習量に極端な差はない。
「ライブサイト」に関しても、卓越はしていないにしてもそれなりに戦えるレベルには今は達してきたと思っている。
だが一つ今の自分が明らかに失っているものがあることに実は薄々感じていた。
それを認めてしまうことは勝ちを諦めるに等しいことなので、敢えて今まで触れなかったが、それしか原因が自分には見つけられない。

やれる努力は全てやり切った。それでも1尾のバスさえ釣れない現実。その原因に薄々は気づいていたが…
失ってしまった能力
自分が長きにわたり失ったのではないかと感じる競技者に最も必要な能力、それは「ゾーンに入る能力」だ。
今の自分は「ゾーンに入れない」、何かのキッカケで一瞬ゾーンに入れたとしても、その「時間的維持能力」が極端に短くなってしまったことが、かなり以前から薄々感じていたことだ。

練習量、技術力、体力、装備で劣る面は少ない。だが、試合中、キッカケがあってもゾーンに長時間入れなくなった
ゾーン、すなわち「極度集中状態」は意識して入れるものではなく、自分が思うにアスリートが加齢とともに意識的に“気付くことなく”確実に失っていくプロ競技者として最も大きな能力のような気がする。
自分はそのゾーン維持能力がプロアングラーとしてはかなり高く、長い選手だったと思う。
それだけにその能力を失ったことを認めず、ずっと同じ感覚で試合に挑んでいる気もする。
ゆえになぜ釣れなくなったかその理由が理解できず、衰えた能力で昔と同じ高みを無謀に目指してしまうがゆえに、逆にまさかのノーフィッシュ連発という「平凡レベル」にさえ届かない結果に陥るのかもしれない。
認めたくはないが今の自分に必要なことは、自分がTOP50プロとして「平凡レベル」であることを受け入れ、それなりの柔軟な戦い方を身に付けることなのかもしれない。
だが、そんな平凡な釣り、年に一度も爪痕すら残せない平凡なプロでは日本最高峰トーナメントであるTOP50を語る資格はないと思っている。
自分にとってTOP50とは、トーナメントを通じて記憶に残る驚きや感動を伝え、ずっと多くのアングラーが目指したくなる憧れの場であってほしいと常に思ってきた。
だからこそ、中途半端にここで諦めるわけにはいかないし、残る2戦、平凡レベルになった自分でも多くのアングラーの記憶に残るプロとして最後まで死力を尽くして一つでも上を目指そうと思う。
勝者は全ての賞賛と歓喜を手に入れることができる。
だが時として人は負けることで勝つこと以上に、人としての成長と、勇気、感動を残せることもあると、今は思うようになった。
青木大介プロ、完全復活
今試合、自分的に一つだけ(少し)嬉しかったことがある。
それは青木大介プロがTOP50に復帰して完全復活の優勝を遂げたことだ。
そして表彰の頂上で自分の名に触れてくれたことだ。
その経緯はここでは敢えて割愛するが、彼がTOP50の頂点に立つ姿を再び見て、悔しいがこれこそが多くのバスアングラーが憧れたスター選手、そしてTOP50のあるべき姿なのだと改めて確信した。

残念ながらやはり青木大介プロは表彰台でバエる。スター選手の存在はTOP50には絶対に必要なのだ。河野正彦プロが少年時代憧れた強い青木プロが帰ってきた
過去42年間、数多くのスター選手を輩出し、藤田京弥プロをはじめ今やアメリカでもトップを争うTOPプロを生んだTOP50トーナメントに憧れと敬意を集めるスター選手は絶対に必要なのだ。
それが自分ではないことが悔しくないかと言われれば嘘になるが、自分は自分の人生を賭けてきたJBプロトーナメントがこれからもずっと憧れの日本最高峰の舞台として自分が死ぬまで存続してほしいと願っている。
この舞台が無くなれば自分の歴史も足跡も名前も一緒に消えてしまうのだから。
ま、正直、自分より背が高い青木に自分のポジションを奪われるのは未だに悔しいのがホンネだが、JB黎明期からJB最高峰トーナメントをずっと背負い続けてきた現役プロはもう自分(61歳)と河辺裕和プロ(66歳)の2人だけになった。

こうして3ショットを撮る自分も、河辺プロも、決して悔しさがない訳ではない。だが次代のTOP50を背負うカリスマ選手の復活は、自分たちが人生を賭けた日本最高峰の舞台・TOP50のために必要不可欠な存在だという想いは同じだ
そしてその姿を見て育ったJB史上最高傑作の藤田京弥プロがアメリカで大活躍する今、かつて自分と雌雄を決したアナログ世代最後の青木大介プロに託された使命は重い。
そして、その期待に見事アナログな釣りでの優勝で応えてくれた彼に感謝したい。

自分の携帯を小森嗣彦プロに渡していたら勝手に変な写真撮られてましたわ(笑)。小森プロのような玄人ウケする必殺仕事人的職人プロもまたTOP50に必要不可欠な存在だ